2006年 05月 12日
(決算短信より作成) 大手商社五社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)の二〇〇六年三月期連結決算は、原油や鉄鉱石のほか銅など非鉄金属の価格高騰や事業の選択と集中による効果に加え、財務体質の改善など経営基盤の強化により期初予想を大幅に上回り、連結純利益は過去最高となった。各社は今期の連結純利益について前期に続いて最高益更新を予想、また業績好調を背景に連続増配を計画している。 大手商社五社合計の前期連結業績は期初の売上高五九兆三〇〇〇億円、純利益七二〇〇億円予想から九月中間決算発表時には売上高六一兆二〇〇〇億円、純利益八五〇〇億円に増額修正を行ったが、最終的には売上高六三兆四四九三億円(前の期に比べ九%増)、純利益九三一六億円(同八四%増)となり、売上高、純利益とも過去最高を記録した。 期初予想に比べ増額修正となった最大の要因は原油など資源価格の高騰。各社の資源・エネルギー関連の利益構成は、取り扱い製品によって部門別セグメントの分類が異なることもあり、正確に把握することは難しいが、前期の純利益段階では三菱商事五七%(前の期四二%)、三井物産四二%(同四六%)、住友商事二六%(同三三%)、伊藤忠四〇%(同三三%)、丸紅五八%(同六二%)となっている。 なお、大手商社のなかで資源・エネルギー分野に最も強い三菱商事の資源・エネルギー関連の前期の純利益は二一〇八億円(前の期に比べ二・二倍)と資源・エネルギー関連の純利益で第二位の三井物産の九五六億円(同二二%増)に一〇〇〇億円以上の格差をつけ、丸紅の資源・エネルギー事業の純利益四二八億円(同六六%増)に比べ約五倍と圧倒的な強さをみせている。 収益力の向上に伴い大手商社五社の財務体質も改善している。連結有利子負債残高は住友商事を除き、九一~九二年のピーク時から概ね半減、各社の連結自己資本比率はそろって大幅に向上した。伊藤忠の前期末における連結有利子負債残高はピーク比約六〇%減の二兆二二六五億円、丸紅は同約六〇%減の二兆二六七〇億円、三井物産は同約四〇%減の三兆八〇四八億円、三菱商事は同約五〇%減の三兆八〇二六億円となった。また連結自己資本比率は数年前の一ケタ台から二ケタ台に高まっており、大手商社五社平均では〇〇年三月期の八・九%から前期には一八・二%と過去最高となった。不採算事業の縮小や撤退など効率化を進めたことによりROA(総資産事業利益率)も改善しており、三菱商事の場合九四年三月期の一%台から前期には四・九%に向上している。 今期の大手商社五社合計の連結業績は売上高六四兆七〇〇〇億円(前期比二%増)、純利益一兆三五〇億円(同一一%増)と純利益で初めて一兆円の大台乗せが見込まれる。業績好調を背景に今期配当は前期に続き三社が増配方針で、残る二社についても増配の可能性がある。 <今期の前提原油価格は前期並みと保守的> また、今期業績の前提として三菱商事は為替レートを一ドル=一一〇円(前期実績一一三・三円)、原油価格一バレル五五ドル(同五三・五ドル)で想定しており、大手商社五社の為替レートは一一〇円が三社、一一五円と一二〇円が各一社、原油価格については五五ドルが三社、四八ドルと五八ドルが各一社となっている。 資源・エネルギー価格は四月に米国産標準油種(WTI)が一九八三年の取引開始以来、初めて七五ドル台を記録し史上高値をつけた後、五月に入って調整局面を迎えているが、中国など経済新興国における需要拡大で引き続き高水準で推移する可能性が高い。足下における市況価格と大手商社五社の今期の油価前提を比べると、早くも乖離が生じている。三菱商事と三井物産の場合は一バレル当たり一ドルの変化すると連結純利益段階で年間一〇億円強の変動要因となる。また伊藤忠は約八億円、残る二社は一~二億円程度とみられるが、原油価格が高水準で推移すれば今期業績見通しは増額修正される公算が大きい。また、為替変動については円高はマイナス要因となるが、ドルに対し一円変動すると連結純利益では年間で三菱商事が約一九億円、三井物産が約一六億円、その他は一~五億円の影響を受ける。 <非資源・非エネルギー関連へも投資を拡大> 資源・エネルギー価格の高騰による収益増を背景に投資余力が拡大したこともあり、大手商社各社は資源・エネルギー関連投資を上積みしているほか市況変動に左右されない経営体質の構築を目指し生活関連事業など非資源・非エネルギー関連への投資も増やしており、その総合機能が改めて注目できる状況になってきた。 三菱商事の〇六~〇九年度の投資計画は一兆二〇〇〇億円(〇四~〇七年度・八〇〇〇億円)と大幅に増やす方針で、このうち資源・エネルギー関連へ三〇%強を予定。すでに〇六年五月には北アフリカ・チュニジア共和国において陸上ガス開発鉱区の権益を取得したほか、今後はロシアの天然ガス開発「サハリン2」やオーストラリアでの石炭増産などにも重点投資を行う。残りは食料・食品や産業金融、消費者関連、海外などにも幅広く投資を行う方針。 また三井物産の〇四~〇五年度の投資額は当初計画の五〇〇〇億円に対し実績は六八〇〇億円となったが、〇六~〇七年度は一七%増の八〇〇〇億円を計画。このうち約五〇%は資源・エネルギーへ、約三〇%は育成・強化分野である食料・リテールへ投資する予定で、残り約二〇%は海外発電事業などインフラ分野などに充当する方針。このほかの大手商社も非資源・エネルギーへの投資を一段と強化することにより、持続的な利益成長を目指している。 ソース:「立花月報」2006年6月号 by永谷修一
by shosha-man
| 2006-05-12 20:15
| 商社業界
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