2006年 05月 15日
◆途上国で削減事業 企業が相次ぎ参入,政府も購入開始へ 二酸化炭素(CO2)など、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出権取引が、国内企業の間で広がっている。商社、電力、鉄鋼メーカーなどが、途上国から排出権が得られるプロジェクトに取り組み、新規事業の発掘にも積極的だ。新年度からは、京都議定書で温室効果ガス削減を義務付けられている日本政府が排出権の購入に乗り出すため、企業同士や企業と政府との取引が一段と活発化しそうだ。(豊田千秋) ■CDMが増加 日本企業の排出権取引は、昨年2月に発効した京都議定書の「京都メカニズム」に基づき行われている。京都メカニズムは、企業などが他国の事業で温室効果ガスを削減した分などを自国分としてカウントできる仕組みだ。 〈1〉先進国の企業などが途上国で温室効果ガスの削減事業を行うクリーン開発メカニズム(CDM)〈2〉先進国同士が共同で削減事業を行い、排出権を投資国が得る共同実施(JI)〈3〉他国で余っている排出枠を購入する排出量取引――の3種類がある。 このうち、途上国で削減事業を行うCDMは、省エネ技術で優位に立つ先進国の企業にとって取り組みやすいため、実施企業が増えている。政府はこれまでに41件のCDM事業を承認した。 ■転売で利益 丸紅が韓国で実施している風力発電事業(同社提供) 積極的なのは大手商社だ。丸紅は、2007年から日揮などと共同で、中国・浙江省でフロン製造工場から排出される温室効果のあるフロンガス「HFC23」を回収・分解するCDM事業を始める。HFC23の温室効果はCO2の1万1700倍もあるため、分解することで効率良く排出権を獲得できる。 この事業で得られる排出権はCO2換算で年間580万トン分。世界銀行の05年平均の排出権価格をもとに試算すると約38億円になる。事業費は12億~24億円の見通しで、排出権を政府や他の企業に転売すれば、10億円以上の利益が得られる計算だ。丸紅は韓国でも風力発電のCDM事業を展開している。 一方、東京電力は、チリの養豚場の排せつ物から出るメタンガスを燃やすCDM事業に取り組む。メタンガスの温室効果はCO2の21倍あり、燃焼させるだけで排出権が得られるのだ。同社の狙いは、転売で利益を得るというよりも「業界の削減目標を達成するため」(広報部)という。 1997年に経団連(現日本経団連)が業界ごとに削減目標を定めた「環境自主行動計画」で、電力業界は90年度比で20%削減する目標を掲げた。しかし、2004年度は原発の長期停止で火力発電への依存度が高まり、排出量を減らせなかった。今後、国内の省エネが計画通りに進まなかった場合は、排出権購入で補う考えだ。 新日本製鉄も三菱商事と共同で、中国・山東省のフロン製造工場から排出される副産物の分解に取り組むが、「排出権は、業界の削減目標達成のための保険のようなもの」(新日鉄広報センター)としている。 ■先進国間で争奪戦も 日本政府は、08~12年平均で、温室効果ガスを90年比6%削減するよう京都議定書で義務付けられており、企業など民間事業者の削減や森林によるCO2吸収のほかに、政府がCO2換算で1億トン分の排出権を購入する必要があると考えている。国内の省エネや森林整備に限界があるためだ。 政府は06年度から8年間、CDM事業に取り組んでいる企業などから排出権を購入する。27日に成立した06年度予算には54億円が計上されており、夏以降に買い取りを始める。 世界銀行の05年のデータで試算すると、CO2で1億トン分の排出権価格は約664億円だが、「先進国間で排出権の争奪戦が起きると予想される」(経産省環境経済室)ため、10年には2倍に上昇するとの予測もある。政府は価格高騰の前に十分な排出権を得ておきたい考えだ。 一方、欧州では、オランダが削減目標量の約8割を確保済みとされる。スペインやイタリアなども既に政府が排出権取得制度を整えており、出遅れた日本政府の危機感は強い。 財政難の日本政府は、できるだけ低価格で排出権を買いたいが、企業側は「政府の削減枠に貢献したいが、取引は価格による」(丸紅)とあくまで採算を重視する構えだ。 クリーン開発メカニズム(CDM) 京都議定書で認められた温室効果ガスの削減方法。対象の温室効果ガスは二酸化炭素やメタン、フロンなど6種類。先進国の企業などが発展途上国で削減事業を行うと、その削減分を排出権として獲得でき、自国の削減分にカウントされる。排出権を得るには、企業が所在する先進国と、投資先の途上国の事業承認が必要。さらに、国連の「CDM理事会」の承認などを経て正式に排出権の取得が認められる。 (2006年3月28日 読売新聞)
by shosha-man
| 2006-05-15 19:47
| 商社業界
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